イ・チャンドン初の短編『心臓の音』Netflix公開 チョン・ドヨン出演
写真: チョン・ドヨン — K-POPIT 케이팝잇 / CC BY 3.0『ペパーミント・キャンディー』『シークレット・サンシャイン』『バーニング』などで知られるイ・チャンドン監督の初の短編映画『心臓の音』(原題:심장소리)が、11月2日にNetflixで公開された。2022年の第23回全州国際映画祭で初めて上映された作品で、映画祭から4年たってオンラインで見られるようになった。上映時間は28分。チョン・ドヨンが母親を演じ、ソル・ギョングは父親役で声だけ出演している。
主人公は少年のチョリで、キム・ゴヌが演じる。母はうつ病を抱え、父はタワークレーンの上で籠城を続けている。家にいるはずの母に電話をかけてもつながらない。母に何かあったのか確かめようがないまま、チョリは家に向かって走り出す。映画は、家に着くまでの道のりでどんどん大きくなっていく少年の不安を追っていく。

父親は画面に姿を見せず、声だけで登場する。高い場所で籠城している父と、地上にいながら連絡がつかない母。二人の事情はまったく違うが、チョリにとっては「両親のどちらもそばにいない」という同じ現実として一度に押し寄せてくる。
日本の読者には「タワークレーンでの籠城」という設定がなじみにくいかもしれない。韓国の元記事では「高空籠城」と書かれており、労働現場での対立が背景にあると説明されている。タワークレーンは対立が起きている場所であり、同時に父が家族と離れている理由でもある。家族から物理的に遠く、家族の面倒を見ることもできない。この二つが重なって、チョリの不安の土台になっている。
母のうつ病も、少年の行動と切り離されてはいない。作品は病気そのものを細かく説明するより、連絡が取れなくなったときに家族が感じる怖さに焦点を当てている。チョリにとって大事なのは、母の様子を自分の目で確かめることだ。家までの距離は、先の見えない時間を少年が耐え抜かなければならない区間になる。
別々の出来事として描かれる母のうつ病と父の高空籠城は、チョリの日常の中では切り離せない。労働現場の対立で家を離れた父と、心の不調に苦しむ母のあいだで、少年は家族の無事を案じる立場に追い込まれる。大人が背負う問題が、そのまま子どもにまで及んでしまう構図だ。
作品が生まれたきっかけは、世界保健機関(WHO)と北京当代芸術基金会(BCAF)が、うつ病をテーマにした映画づくりをイ・チャンドン監督に持ちかけたことだった。テーマは心の健康だが、症状を解説する方向には進まず、家族関係の中で生まれる不安に重心を置いている。
演出の中心は、少年の動きと表情だ。走る場面が何度も繰り返されるうちに、チョリの息づかいや顔つきが少しずつ変わっていく。チョリが母に会うまで、観客にも結末はわからない。わずかな情報しかないまま移動が続くことが、作品の緊張感を生んでいる。
28分という短い尺も、物語をチョリの行動に絞り込む条件として働いている。家族が置かれた状況をすべて説明したり、出来事の背景を長々と見せたりはしない。一人の少年が家まで走る時間を軸に、物語をぎゅっと凝縮している。労働と病気という種類の違う問題が子どもの暮らしに与える影響が、短い移動の時間に重ねて描かれる。
イ・チャンドン監督の作品では、これまでも個人の人生と社会の状況が絡み合って描かれることが多かった。『ペパーミント・キャンディー』は一人の男の人生を通して韓国現代史の移り変わりをたどり、『シークレット・サンシャイン』は喪失を経験した女性と周囲の共同体との関係を描いた。『バーニング』では、若者たちの不安や階層間の隔たりが物語の重要な要素になっていた。
『心臓の音』では、労働争議と心の病という二つの問題が一つの家族の日常に同時に置かれる。父の籠城は労働現場で起きていることだが、チョリにとっては「父が家にいない理由」になる。母のうつ病も医学的な診断の話にとどまらず、連絡が途絶えた瞬間に少年が感じる恐怖とつながっている。社会の問題を一人の人間の暮らしから見つめるという、これまでの長編に通じる視点が、28分の短編にも表れている。
脚本はオ・ジョンミが担当した。チョン・ドヨンとソル・ギョングは、イ・チャンドン監督の長編映画『可能な愛』(原題:가능한 사랑)にも出演している。短編と長編で製作規模も物語の形式も違うが、どちらも労働問題と家族関係を扱っている点は共通している。同じ監督のもとで同じ二人の俳優が、似たテーマを持つ別々の作品に関わっていることになる。
全州国際映画祭で上映された2022年当時は、映画祭の会場に行かなければ見られない作品だった。4年後のNetflix公開によって、短編作品としてはこれまでになく多くの人が見られるようになった。イ・チャンドン監督にとって初めての短編という点でも、長編とは違う形式で何を描いたのかを確かめる機会になる。
28分の物語の中心にあるのは、大きな事件の全体像ではない。母からの電話を待ちながら家へ走る一人の少年だ。タワークレーンの上の父と、連絡がつかない母。その二人のあいだで不安を抱え続ける子どもの時間が、『心臓の音』という作品になっている。
原文:이창동 '심장소리', 타워크레인 농성과 우울증 사이에 놓인 소년의 불안






